ことばのビルを建てよう

ことばのビルを建てよう

お子さんの「ことば」に関するご相談を、私たち言語聴覚士(ST)は日々たくさんいただきます。
「なかなか言葉が出てこない」「ひらがなが覚えられない」「発音がうまくできない」など、こうしたお悩みを抱える親御さんは少なくありません。

しかし、ことばの発達は“急に芽をを出す”ものではありません。
それはまるでビルを建てるように、しっかりとした土台の上に、一つひとつの階が積み上がっていくもの。
焦らず、ひとつひとつの階を一緒に作っていくことが大切です。

ことばの土台は「からだ」から

子どもの「ことばの力」は、頭の中だけで育つわけではありません。ことばの芽がすくすく伸びていくためには、身体の発達や感覚の経験がしっかりしていることが大切です。

たとえば、赤ちゃんの寝返りやハイハイには、

  • 自分の身体の位置を感じる力(固有受容感覚)
  • バランスをとる力(前庭感覚)
    が育つ要素が含まれています。

これらの感覚が整うことで、姿勢を保つ・視線を安定させる・人の話をじっと聞くといった“集中するための土台”が作られます。

身体を支える軸(体幹)がしっかりすることで呼吸も安定し、口や舌の動きがスムーズになります。
つまり、身体の安定=ことばの安定
この基盤があることで、「聞く」「話す」「伝える」といった力が自然と働きやすくなります。

さらに、手足を使った遊びや運動は、脳の「順序立てて考える力」や「計画して動く力」を刺激します。これは後の「文を組み立てる力」や「話の流れを考える力」につながります。だからこそ、小さいうちはたくさん身体うぃ動かして、五感を使って遊ぶことが何より大切です。

外で風を感じる、砂や水に触れる、坂道を登って降りる──
こうしたシンプルな遊びの中に、脳を育て、ことばの土台を固める栄養がたっぷり詰まっています。

音の世界を楽しむことから

身体の土台が整ってくると、「音の土台」が育ち始めます。
身のまわりの音に耳を傾ける、声をまねる、音を使ってで遊ぶ──。こうした経験が、“聞く力”と“話す力”の橋渡しをしてくれます。

音を聞き分けたり、声を出して遊ぶことは、発音の学びや文字の習得にもつながる大切なステップです。例えば、「ぱ」「ば」「ま」といった似た音を聞き分ける力がつくことで、発音がしやすくなったり、ひらがなの学びにつながったりします。
音に触れて楽しむことは、ことばの成長に欠かせない大切なプロセスです。

理解 → 表現 → 会話へと積み上がる

ことばのビルが建つ過程は、大まかに次のように積み上がっていきます。

1階:理解する力

「おいで」「ちょうだい」など身近な言葉が分かるようになると、ことばの世界がぐっと広がります。

2階:表現する力

「もっと!」「ママ、みて!」など、自分の気持ちを言葉で伝えられるようになると、親子のやりとりが豊かになります。

さらに上の階:考える力・会話の力

「どうして?」「もし〜だったら?」など、自分の考えをことばにして伝えられるようになることで、ことばは“思考の道具”へ。子どもの世界はより広く、深く広がっていきます。

焦らず、土台を大切に

「なかなか話さない」「言葉が出にくい」と感じたときは、まず“土台”を一緒に見てみましょう。

  • 身体をしっかり動かせているか
  • 音を楽しめているか
  • 大人とのやりとりを楽しめているか

この3つの柱が整うと、ことばのビルはよりしっかりと建っていきます。

ことばは、子どもの“こころ”と“世界”をつなぐ大切な架け橋です。
その橋をかけるには、身体の動き、音の経験、人との関わりが欠かせません。

もし言葉の発達に不安を感じたときは、ひとりで抱え込まなくて大丈夫です。
お子さんのペースや得意なことを一緒に見つけ、安心して育てていくお手伝いをするのが、私たち言語聴覚士(ST)の役目です。 焦らず、楽しく、「ことばのビル」を一緒に育てていきましょう。

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